2023.09.26

職場環境の変化を考える。

映像業界に足を踏み入れ三十数年。

 

ADとして同期や歳の近い先輩と闘志むき出しで過ごした20代。

企画・演出として、クライアントや代理店担当者とがむしゃらに作品制作に打ち込んだ30代。

40代半ば過ぎからはめっきり現場の数も減り、気が付けば新しいクリエーターとなる仲間の創出と環境づくりが私にとって大きな任務の一つとなっています。

いわば「新卒の採用と育成」です。

 

「俺たちの若い頃はな~」というフレーズは部下や後輩に使うのはタブーです。

と、どこのセミナーに行っても聞かされますがここでは少しだけ触れさせていただきます。

 

一昔前までは典型的な「帰れない」「厳しい」「給料が安い」の3K職種であった映像業界。

私がAD時代だった20代は、「仕事は教わるものではない、見て盗め。」

「お前らの代わりなるヤツは掃いて捨てるほどいるから、ついて来れないヤツはいつでも辞めろ。」と会社に就職するというよりは“弟子入り”に近い感覚であり、それが当たり前の職場環境でした。

撮影や編集が終わった後は必ずといっていい程、打ち上げと称した飲み会が頻繁に行われ、多い時には周に6回ペースの月もありました。

AD連中は疲れた体に鞭を打って打ち上げの段取りをし、飲み会中も常に先輩方のグラス状況を確認し両手に瓶ビールを持ちながら右往左往と注ぎ回りながら、先輩方の武勇伝や理不尽な説教をくらったものでした。

今でいう「アルハラ」ですが、私の性格上それはそれで楽しく呑みの場を楽しめていました。

就職先を選ぶ際も、給料はいくら貰え、どんな福利厚生があるのか、休日は何日あるのか?

などにはあまり興味はなく、

どんな番組や映像を創っているのか?どんな機材があるのか?

の方がよっぽど気にして会社選びをしていたものでした。

全ての映像業界人の同世代がそうであるとは断言は出来きませんが、少なくても私と一緒に映像を学んでいた仲間は全員そんな感じでした。

 

ADを卒業し、企画・演出としてフロントに立って仕事をしていた20代後半時代、

“締め切りは4日後で”と言われれば4日×20時間=60時間ある。の計算式が当たり前で、今となればほとんどの人間が時間の概念がバグっていたと思える話です。

タイムカードもなく、事務所に寝袋やお風呂セットを置いた生活も当たり前の時代でした。

 

クライアントや代理店担当者も同じで、編集現場などでは、「あーでもない、こーでもないと」編集室で一緒になってとことん納得がいくまで共創し、朝日の中帰路についたものでした。

今思えば当時のクライアントさんは作品制作に対し最後までとことん熱心に向かい合ってくれ、クライアントに育てて頂いたと感じています。

ちなみにその頃ふと自分の一か月の時間給が気になり算出したところ250円だったことから、初めて社長(前社)に賃上げ要求をしたのも懐かしい思い出です。

 

 

映像業界が徒弟制度の極みで無法地帯であった時代から、

ここ7年8年は、働き方改革、36協定、〇〇ハラスメントなど、様々な業界で職場の環境改善への取り組みが推し進められてきました。

弊社においても労務士と相談しながら働き方、職場環境の改善に取り組んできました。

“変えなければいけない部分”と“残していかなければいけない部分”

それはとことんモノづくりに打ち込みたいクリエーター達にとっては相容れない変化であり、なかなか浸透しない部分も多分にあります。

例えば、

良い作品を作るために休日出勤して何が悪いの?

自分が好きで徹夜しているのだからいいじゃない?

若手育成のためだから現場で怒鳴られるのは当たり前でしょ?

などなど、私の時代を過ごした人間に今の働き方をあてはめようとしても、昔ながらに染みついた習慣はなかなか抜けないのが現実です。

そしてこの思考や行動は新しい人材を受け入れるのには相容れないラインが生まれ、やがて二分化し捻じれを起こし、早期離職者・定着率の低下など人材育成への弊害が大きな課題でした。

 

しかしここ10年の新卒採用で殆どの学生は、映像業界にきちんとした“就職”を考え職場選びをしています。

 

弊社は、徒弟制度の厳しい環境で育ったクリエーターの意識と働き方の改善を中心に、セミナー受講や評価制度を設けるなど今を生きる、“ゆとり世代”“さとり世代”“Z世代”の受け入れ態勢に注力してきました。

会社組織とは無縁だったクリエーター達にプレイングマネージャーとして管理職に立ってもらい、課の運営や労務管理など、我々の職種にあまり必要としなかった部分の重要性を改めて認識し、現代に即したプロダクションの環境を構築目指しています。

まだまだ未完成ですが、この10年で大きく変わってきています。

 

しかし、働き方や環境が変わっても絶対に変えてはいけない大切にしている部分があります。

それは「モノづくりへの情熱」と「クオリティー」です。

働き方や環境が変わってもモノづくりへの想いや品質を落とすことは本末転倒で、これまで築いてきた信頼と安心、そして創業からの想いとの共存を目指しています。

 

AIによる画像生成やChatGPTによる文書の作成。

今を生きる、“ゆとり世代”“さとり世代”“Z世代”の方々は、これらを駆使して我々が徹夜して考え、手を動かして作り上げてきたクリエーティブの半分以上の事を先進の技術に任せ、残りの少しの部分を自身のクリエイティブエッセンスを加え作品を創る。

我々世代から見れば“手抜き”が彼らには当たり前のプロセスであることを私たちは受け入れる準備が必要であると考えます。

それは思考だけではなくテクノロジーの両方の観点から、時代に即した働き方から生まれる、次代の若者が創るクリエーティブと共に歩む環境こそが真の環境の変化だと考え、我々もプロの仕事としてAIやChatGPTをはじめとする先進の技術にクリエーティブの一部をゆだねるフェーズに差し掛かっています。

差し当たり私もこの原稿をChatGPTで添削をかけてみたいと思います。